どな。では、先刻供先の者共、身が容子探りに参ったと申すか。七十三万石にも似合わず、なかなかに細《こま》かいのう。いや、その方の工夫至極と面白そうじゃ。言ううちに行列参るとならぬ。早うせい。早うせい」
 忽ち奇策成ったと見えて、退屈男自らも手伝いながら、釣りをしまって川岸を引きあげると、陣屋の中にすうと姿をかくして、ぴたり真一文字に御門の扉を閉め切りました。
 それと殆んど同時です。供先揃えながら、鳥毛、挟み箱の行列も七十三万石の太守らしく横八文字に道を踏んで、長蛇のごとく練って来たのは待ちに待たれた島津のお道中でした。しかも、先刻容子探りに早駈けさせた両名が先供《さきとも》を承わって、その報告に随い、今日ばかりは素通り出来まいと早くも用意したのか、形ばかりの音物を島台に打ちのせて、静々と練り近づいて来たかと見えたが、居た筈の源七郎君が川岸に見えないのみか、ぴたりと御門までが閉ざされていたのを知ると、まことに言いようのないはしたなさでした。俄かに献上品を片付けさせて、この機と言わぬばかりにあの両名が命令を与えながら、うまうま通りぬけようとしてさッと行列の面々に足を早めさせました。――刹那
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