がらなかなか勘定高うてな、この十年来、兎角お墨付を蔑《ないがし》ろに致し、ここを通行致す砌《みぎ》りも、身が他行《たぎょう》致しておる隙を狙うとか、乃至は夜ふけになぞこっそりと通りぬけて、なるべく音物《いんもつ》届けずに済むようと、気に入らぬ所業ばかり致すのでな、頂かぬものは即ち貸し分じゃ。いけぬかな」
「いや分りましてござります。重々御尤もな仰せなれば、手前一つお力添え致しまして、十年分ごといち時に献納させてお目にかけましょうが、いかがにござりましょう」
「ほほう、その方が身のために力を貸すと申すか、眼《がん》の配り、向う傷の塩梅、いちだんと胆も据っておりそうじゃ。見事に貸し分取り立てて見するかな」
「御念までもござりませぬ。お墨付を蔑ろに致すは、即ち葵御宗家《あおいごそうけ》を蔑ろに致すも同然、必ずともに御気分の晴れまするよう、御手伝い仕りましょうが、一体いかほどばかりござりましたら?」
「左様喃。何を申すも十年分じゃ、三万両ではちと安いかな」
「いや頃合いにござりましょう。然らば恐れながらお耳を少々――」
「うん、耳か耳か。よいよい、何じゃな……」
「………」
「ふんふん、なるほ
前へ
次へ
全48ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング