にござります。いつもながら御健勝に渡らせられまして、恐悦に存じまする……」
「おお、土佐侯でござったか。いや、恐縮じゃ恐縮じゃ――」
主侯は誰でもない南海土佐二十二万石の太守山内侯でした。だが、どうやら土佐侯は、そのお見込も上乗、道中神妙番付面に於ても上位の方にあるらしく、ぐずり松平の御前至って御機嫌であったのは、むしろ心よい位です。
「御身がこん日、御道中とは一向に心得ざった。お構いなく、お構いなく――」
「有難い御言葉、却って痛み入りましてござりまする。いつもながらの御清興、お羨《うらや》ましき儀にござります」
「いや、なになに、それ程でもない。近頃年を取ったか、とんと気が短うなって喃《のう》。禅《ぜん》の修行代《しゅぎょうがわ》りにと、かようないたずらを始めたのじゃ。時に江戸も御繁昌かな」
「はっ、近年はまた殊のほかの御繁昌にて、それもみな上様の御代《みよ》御泰平のみしるし、恐れながら土州めも、わがことのように喜ばしゅう存じあげておりまする儀にござります。これなるは即ち、その江戸よりのお手土産、御尊覧に供しまするもお恥ずかしい程の品々にござりまするが、何とぞ御憐憫《ごれんびん》
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