。まことに鬼に金棒、徳川御一門の松平姓を名乗るやんごとない御前をそのうしろ楯に備えておいたら、いかに島津の修理太夫が、七十三万石の大禄に心|奢《おご》り、大藩領主の権威を笠に着たとて、ぐずり御免のそのお墨付に物を言わせるまでもなく、葵《あおい》の御紋どころ一つを以てこれを土下座せしめる位、実に易々たる茶飯事だったからです。
「わははは、面白いぞ、面白いぞ、さては何じゃな、今の二人が陣屋の雲行《くもゆ》き、探りに参ったところを見ると、島津の太守、つね日頃より松平の御前の御見込みがわるいと見ゆるのう。そうであろう。どうじゃ、そのような噂聞かぬか」
「はい、聞きましてござります。いつもいつも献上品を出し渋り勝ちでござりますとやらにて、道中神妙番付面では、一番末の方じゃとか申すことでござります」
「左様か、左様か、いやますます筋書がお誂え通りになって参ったわい。然らば一つ馬の代五千頭分程も頂戴してつかわそうかな。御陣屋は街道のどの辺じゃ」
「ついあそこの曲り角を向うに折れますとすぐでござります」
「ほほう、そんなに近いか。では、早速に御前へお目通り願おうぞ。そちも早うこの馬弔うておいて、胸のす
前へ
次へ
全48ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング