くところをとっくりと見物せい」
 若者に教えられて、御陣屋目ざしながら出かけようとしたとき、いかさま容子探りに行ったのが事実であるらしく、足掻《あが》きを早めながら駈け戻って来たのは先刻のあの二人です。パッタリ顔が合うや否や、馬上の二人は、退屈男の俄かに底気味わるく落ち付き払い出した姿をみとめて、ぎょッと色めき立ちました。だが、今はもう退屈男にとっては、名もなき陪臣《またざむらい》の二人や三人、問題とするところでない。目ざす対手は、大隅《おおすみ》、薩摩《さつま》、日向《ひうが》三カ国の太守なる左近衛少将島津修理太夫《さこんえしょうしょうしまずしゅりだいふ》です。
「びくびく致すな、その方共なぞ、もう眼中にないわ。七十三万石が対手ぞよ。行け、行け、早う帰って忠義つくせい」
 皮肉にあしらいながら馬上の二人をやりすごしておくと、五十三次名うての街道をわがもの顔に、のっしのっしと道を急ぎました。

       三

 折からそよそよと街道は夕風立って、落日前のひと刻の茜色《あかねいろ》に染められた大空は、この時愈々のどかに冴え渡り、わが退屈男の向う傷も、愈々また凄艶に冴え渡って、いっそも
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