御血筋とも思えぬ程の飄逸《ひょういつ》な御気象に渡らせられたところから、大名共の手土産高を丹念な表に作り、これを道中神妙番付と名づけ、上から下へずっと等級をつけておいて、兎角、音物《いんもつ》献上品《けんじょうひん》を出しおしみ勝ちな大名が通行の際は、雨の日風の日の差別なく、御陣屋前の川に糸を垂れてこれを待ちうけながら、魚と共に大名釣を催されるのが、しきたりだったために、誰言うとなく奉ったのが即ちこの、世にも類稀《たぐいまれ》なぐずり松平の異名《いみょう》です。いかさま見様に依っては、その異名のごとくぐずることにもなったに違いないが、しかし、同じぐずりであったにしても、一国一城の主人《あるじ》を向うに廻してのことであるから、まことにやることが大きいと言うのほかはない。しかもぐずり御免のその御手形が、先の征夷大将軍家光公、お自ら認めて与えたお墨付たるに於ては、事《こと》自《おのずか》ら痛快事たるを免れないのです。それゆえにこそ、退屈男もまたこの際この場合、二人と得難きぐずり松平の御前が近くにおいでときいて、これぞ屈竟《くっきょう》の味方と、目を輝かしつつ打ち喜んだのは無理からぬことでした
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