人を喰ったものばかりでした。
[#ここから2字下げ、ただし冒頭の「のみは1字下げ]
「御気ノ毒ナガラ金運ナシ。
サレド富貴栄達ノ相アレバ、一国一城ノ|主《アルジ》タラム。
美姫《ビキ》アリ。
西ヨリ来ッテ妻トナル。
夫情《フジョウ》濃《コマ》ヤカニ致サバ、男子《ナンシ》十一人出生セム。
剣難ナシ。
サレド道ニ喧嘩口論ヲ挑ム者アリ、手向イ致サバ怪我スル恐レアレバ、逃グルニ如《シ》カズ。
心スベシ。
右神易ノ示ストコロナリ。疑ウベカラズ。見料モ亦忘ルベカラズ」
[#ここで字下げ終わり]
「わははははは。こやつ喰わせ者じゃな。阿部流総本家とはすさまじいぞ。わははは、わははは」
退屈男は、思わず声をあげて、カラカラと笑い出しました。どれもこれも出鱈目《でたらめ》以上に出鱈目、滑稽以上に滑稽だったからです。千二百石取りの大身をとらえて、金運なしと空《そら》うそぶいたのも然り、富貴栄達の道がないからこそ退屈もしていると言うのに、一国一城の主云々と言ったのも然り。美姫あり、西より来って妻となり、男子十一人出生も人を喰った話ですが、わけても江戸名代胆力無双のわが旗本退屈男を目前にして、道に喧嘩口
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