旗本退屈男 第四話
京へ上った退屈男
佐々木味津三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)飄然《ひょうぜん》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)丁度|頃《ごろ》の夕まぐれ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あくでえ[#「あくでえ」に傍点]
−−

       一

 その第四話です。
 第三話において物語ったごとく、少しばかり人を斬り、それゆえに少し憂欝になって、その場から足のむくまま気の向くままの旅を思い立ち、江戸の町の闇から闇を縫いながら、いずこへともなく飄然《ひょうぜん》と姿を消したわが退屈男は、それから丁度十八日目の午下《ひるさが》り、霞に乗って来た男のように、ふんわりと西国《さいごく》、京の町へ現れました。
 ――春、春、春。
 ――京の町もやはり青葉時です。
 都なればこそ京の青葉はまたひとしおに風情《ふぜい》が深い。
 ふとん着て寝た姿の東山、清水《きよみず》からは霞が降って、花には遅いがそれゆえにまた程よく程のよい青嵐《あおあらし》の嵐山。六波羅跡《ろくはらあと》の崩れ垣の中からは、夜な
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