。
「どこまで不埒《ふらち》働こうという所存じゃッ。無辜《むこ》の良民の命縮めて、上役人の掟が立つと思うかッ。神妙にせい! いずれも一寸たりとそこ動かば、早乙女主水之介が破邪の一刀忽ち首《こうべ》に下ろうぞッ」
叫びつつ、磔柱をうしろ背にすッくと仁王立ちに突ッ立った凄艶《せいえん》きわまりないその姿に、采配振っていた片われ二人が、ぎょッと身じろぎしながら鯉口切ったところへ、気色ばみつつ走りつけて来たのは、通行を拒《こば》んだあの二人、右と左から口を寄せて何か口早に囁いたかと見えるや、同時でした。
「そうか! 何もかも弥太一からきいてのことかッ」
「露顕したとあらばもうこれまでじゃッ。うぬがうろうろと門前を徘徊《はいかい》致しているとの注進があったゆえ、邪魔の這入らぬうちに手ッ取り早く珠数屋を片付けようと、折角これまで運んだものを、要らざる御節介する奴じゃッ。木ッ葉旗本、行くぞッ、行くぞッ」
ののしり叫びざまにギラリギラリと抜いて放って、四人もろとも、正面左右から迫って来たのを、退屈男は莞爾《かんじ》たり!
「参るか。望まぬ殺生なれど向後《こうご》の見せしめじゃ。ゆるゆるとこの向う傷
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