たすらに探し求めました。と――その闇の奥庭の遙か向うで、ぽうと怪しく燃え上がったのは、異様な篝火《かがりび》の灯りです。同時にその灯りの中から、ありありと浮び上がって見えたのは、正しく磔柱《はりつけばしら》を背に負った珠数屋の大尽のお仕置姿でした。しかも、最期は今近づいているのです。手槍を擬した小者達両名がその左右に廻って、今し一ノ槍を突き刺そうとしているのです。否、そればかりではない! そればかりではない! 仕置人足達の采配振っているのは、あの四人のうちの片割れ二人なのだ。互に手分けして二人は必死に門を固め、残った二人は珠数屋の大尽の磔処分に当ろうとの手筈だったらしく、声高に叱咤《しった》しているおぞましい姿が、ありありと灯影の中にうごめいて見えるのです。――知るや、退屈男は一散走り! 刄襖《はぶすま》林の間をかいくぐりながら、脱兎《だっと》のごとくに走りつけると、
「天誅《てんちゅう》うけいッ」
声もろともにダッと左右へ、槍先擬していた二人の小者を揚心流息の根止めの拳当てで素早くのけぞらしておきながら、騒然と色めき立った周囲の黒い影をはったと睨《ね》めつけて、痛烈に言い叫びました
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