この制札が賄賂止めとは何ごとじゃッ。不埓《ふらち》な暴言申さば、御直参たりとも容赦ござらぬぞッ」
「吠えるな、吠えるな。そのように口やかましゅう遠吠えするものではない。揃いも揃うてよくよく物覚えの悪い者達よ喃。この一札こそは、まさしく先々代の名所司代職板倉内膳正殿が、町人下郎共の賄賂請願《わいろせいがん》をそれとなく遠ざけられた世に名高い制札の筈じゃ。無役ながら千二百石頂戴の直参旗本、大手振って通行致すに文句はあるまい。早々に出迎い致してよかろうぞ」
「ぬかすなッ。ぬかすなッ。出迎いなぞと片腹痛いわッ。どういう制札であろうと、通行お差し止めと書いてあらば開門無用じゃッ」
「ほほう、なかなか口賢《くちざか》しいこと申しおるな。ならば制札通り、禁中、お公儀の御使者だったら、否よのう開門致すと申すか」
「くどいわッ、くやしくば将軍家手札でも持って参らッしゃいッ。もう貴公なぞと相手するのも役儀の費《つい》えじゃッ。おととい来るといいわッ」
面憎《つらにく》げに罵り棄てると、この上の応対も面倒と言わぬばかりに、ピタリ物見の窓をしめ切りました。同時に当然のごとく退屈男が嚇怒《かくど》して、大声に
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