叱咤《しった》でもするだろうと思いのほかに、その一語をきくや否や、期せずして凄艶《せいえん》な面に上ったのは、にんめりとした不気味この上ない微笑です。
「先ずこれで筋書通りに参ると申すものじゃ。然らばそろそろ篠崎流の軍学用いて、否やなく開門させて見さしょうぞ。駕籠屋!」
さし招くと、
「ひと儲けさせてとらそう。早う参れ」
一二丁程向うにいざなって、ちゃりちゃりと山吹色の泣き音をさせながら、裸人足共の手のうちに並べて見せたのは天下通宝の小判が十枚――。
「これだけあれば不足はあるまい。どこぞこのあたりの駕籠宿に参って、至急にこれなる乗物、飛脚駕籠に仕立て直して参れ」
「どうなさるんでござんす」
「ちと胸のすく大芝居を打つのじゃ。ついでに替肩の人足共も三四人狩り出して参れよ。よいか、その方共も遠掛けのように、ねじ鉢巻でも致して参れよッ」
命じて去ろうとすると、いかなる奇計を用いようというのか、退屈男の口辺に再びのぼったのは不気味な微笑です。――そうして四半刻……。
七
「どいたッ、どいたッ、早駕籠だッ」
「ほらよッ、邪魔だッ、早駕籠だッ」
道々に景気のいい掛け声を
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