こうとしているだけに許せないのです。しかし、問題は珠数屋のお大尽に、切支丹の気があるかどうかなのだ。これをお繩にしたのだったら、止むをえないが、全然それらしい匂いすらもない者を、無実と知りながら罪におとし入れようとの細工であったら、――退屈男の双の目はキラリと冴え渡りました。
「珠数屋というからには仏に縁がある筈、よもやあれなる大尽、切支丹宗徒ではあるまいな」
「ねえんです。ねえんです。切支丹どころか真宗《しんしゅう》のこちこちなんだのに、只あの変な観音様を内証《ないしょ》に所持しているというだけで、やみくも因縁つけようというんだから、今となっちゃあっしまでも野郎達四人が憎くなるんです。言ううちにも、お大尽がお仕置《しおき》にでもなッちや可哀そうだから、ひと肌ぬいでおくんなせえまし。大尽のうちゃ、つい近くの西本願寺様を表へ廻ったところなんだから、行ってみりゃ容子がお分りの筈です。おお痛てえ! もう死にそうなんだッ。打ち斬っておくんなせえまし! 早えところお出かけなすって、打ッた斬っておくんなせえまし! 後生でござんす! 後生でござんす!」
「ようし! 参ろうぞ。対手が所司代付きとあらば
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