「どうもこうもねえんだ。おいらを、この弥太一を生かしておきゃ後腹《あとばら》が病めるからと、バッサリやりやがったんです。斬ったが何よりの証拠なんだ。奴等の企らみが、あくでえ[#「あくでえ」に傍点]細工が、世間にバレねえようにとこの俺を斬ったが何よりの証拠なんだ。野郎共め、今頃はほくそ笑みやがって、珠数屋の二十万両を丸取りにしようとしているに違げえねえんです。いいや、お大尽も早えところ片附けなきゃと、今頃はお仕置台《しおきだい》にでものっけているに違げえねえんです。いっ刻《とき》おくれりゃ、いっ刻よけいむごい目にも会わなきゃならねえに違げえねえんだから、ひと乗り乗り出しておくんなせえまし、後生でござんす! 後生でござんす!」
ギリギリと歯ぎしり噛んで、苦しげに訴えた弥太一の血まみれ姿を黙然と見守りながら、わが好もしき江戸名物の旗本退屈男はじりじりと傍らの白柄細身をにぎりしめました。事実としたら、もとより許しがたい。企らみのあくどさは言うまでもないこと、より以上に許せないのは四人のその身分です。御禁中警固、京一円取締りの重任にあるべき所司代詰の役侍が、その役柄を悪用して不埒《ふらち》を働
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