、骨があるだけに、どうやらずんと退屈払いが出来そうじゃわい。ならば八ツ橋太夫、弥太一とやらの介抱手当は、しかと頼んでおくぞ」
「大丈夫でござんす。御縁があらばあとでしッぽりと、いいえ、ゆるゆる。……ゆずる葉! お乗り物じゃ。お乗り物じゃ。早うお駕籠をとッて進ぜませい」
色香も程の、うれしく仇な八ツ橋の言葉をあとにして、ひらりと駕籠に乗るや一散走り。――
[#ここから3字下げ、ただし冒頭の歌記号のみは2字下げ]
※[#「※」は「歌記号」、第三水準1−3−28、107−16]すういとな、すういとな。
ぬしが帰りの駕籠道に
憎や小雨が降るわいな。降るわいな。
[#ここで字下げ終わり]
灯影を縫ってどこかの二階からか、やるせなさそうな爪弾《つまびき》の小唄が、一散走りのその駕籠を追いかけてなまめかしく伝わりました。
六
道は、壬生《みぶ》のお屋敷小路を通りぬけてしまうと、目ざした西本願寺前までひと走りです。行きついて見ると、いかさま珠数屋というのは、この界隈《かいわい》名うての分限者らしく、ひとめにそれと分る程の大きい構えでした。いや、それよりも退屈男の目をそば立た
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