前に、恐れ気もなく店を張っているのも、都ならでは見られぬ景物に違いない。
通り越して、ひょいと向うを見ると、はしなくも目にうつったのは、「易断」と丸提灯に染めぬいた大道易者のささやかな屋台です。――退屈男は、にやりとやると、のっそり近づいて、千二百石の殿様ぶりを、ついその言葉のはしにのせながら、横柄に言いました。
「退屈の折からじゃ、目をかけてつかわすぞ、神妙に占ってみい」
「………」
「どうじゃ。第一聞きたいは剣難じゃ。あらば早う会うて見たいものじゃが、あるかないか、どうじゃ」
「………」
「喃《のう》! おやじ! どうじゃ。剣難ありと人相に書いてはないか」
「………」
「ほほう。こやつめ、答えぬところを見ると、場所柄が場所柄ゆえ、堅いほうは不得手と見ゆるな。よいよい、然らば女難でも構わぬゆえ観て貰おう。どうじゃ、身共の人相に惚れそうな女子《おなご》があるか」
「………」
「喃! おやじ! なぜ返事を致さぬ! 黙っているは女難も分らぬと申すか!」
だが、老いたる観相家は、奇怪なことにもきょとんとしたまま、一向に返事をしなかったので、不審に思いながらよくよく見ると、返事のなかったの
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