、近くに若いのが大いにイナセがって、三尺帯を臍《へそ》のあたりにちょこなんと巻きつけていたのを発見すると、
「お誂え向きじゃ。ほら、くるッと三べん廻って煙草にしろ」
 ねじ廻すようにくるくると身体を廻しながら、素早く白三尺をほどいて取って、当座の血止めにキリキリと傷口を、それもごく馴れた手つきで敏捷に結わえました。その江戸前のうれしい気性と、うれしい手当に、すっかり感激したのは露払いの弥太一です。
「仏だ。仏だ、ああ痛え! おお痛え! いいえ、旦那は生仏《いきぼとけ》でござんす。悪態《あくたい》ついた野郎を憎いとも思わねえで、御親切[#「御親切」は底本では「御視切」と誤植]な御手当は涙がこぼれます。おお痛え! ああ痛え、畜生ッ、ほ、骨がめりこむようだ。いいえ、涙が、涙がこぼれます。御勘弁なすっておくんなさいまし、さっきの、さ、さっきの悪態は御勘弁なすっておくんなさいまし」
 必死に歯を喰いしばって、必死に苦痛を耐《こら》えながら、手を合わさんばかりにお礼の百万遍を唱えました。――だが、退屈男は淡々たること水のごとし!
「現金な奴よ喃《のう》。ヘゲタレにしたり生仏にしたり致さば、閻魔様《
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