えんまさま》が面喰らおうぞ。それより女! こりゃ、女」
そこの暖簾先《のれんさき》に住の江の婢共《おんなども》が、只打ちうろたえながらまごまごしているのを見つけると、叱るように言いました。
「大切《だいじ》なお客様がお怪我を遊ばしたのじゃ。早く介抱せい」
「………」
「何をためらっているのじゃ。京のお茶屋は、小判の顔を見ずば、生き死の怪我人の介抱もせぬと申すかッ」
辛辣《しんらつ》な叱咤《しった》です。仕方がないと言うように手を添えた女達を促して、退屈男が瀕死の弥太一を運ばせていったところは、一瞬前、遊女達の美しい仇花《あだばな》が咲いた二階のあの大広間でした。
「ま! むごたらしい……」
血まみれなその姿を眺めて、ぎょッと身を引きながら生きた心地もないように八ツ橋太夫は唇までも青ざめていたが、さすがは京の島原で太夫と言われる程の立て女でした。
「みなの衆は何をぼんやりしてでござんす。気付け薬はどこでござんす。医者も早う呼んであげて下さんし」
新造達を叱って、取りあえず応急の手当にかからせました。だが、退屈男にとって第一の問題となり、何よりも急がれたものは、それまで行動を共にし
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