に往来を見すかしているのです。不安げに、うれわしそうに、そして合点の行かぬもののように、じっと見守っていましたが、不意にそのとき、何におどろいたものか、あッ、と小さく叫びながら慌てて面を袖でおおうと、よろめくように打ち倒れました。
「何じゃ! いかがいたした?」
 いぶかりながら歩みよって、窓べりからのぞいて見ると、意外です。さらに意外でした。今のさき雑言交《ぞうごんまじ》りの啖呵《たんか》をのこして一行と引揚げていったばかりのあの弥太一が、朱《あけ》に染まって呻き声をあげながら、ほんのそこの往来先にのけぞっているのでした。しかも、斬った対手は、同じ仲間と思われたあの四人の中のひとりなのです。そのいち人が血刀をぬぐいながら、はやてのような早さで、さッと闇の向うに逃げ走って行きました。
「ほほう。これはまた、ちと急に雲行が変ったようじゃな。面白い! 面白い! 京というところは、ずんと面白いぞ」
 声も冴えやかに、のっしのっしと降りて行くと、名代自慢の疵痕を、まばたく灯影に美しく浮き出させながら、人集《ひとだか》りを押しわけて、新らしく降って湧いた秘密と謎とを包みながら呻き倒れている弥太一
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