ろ。お国歌舞伎の芝居とは少々筋書が違ってるんだ。所司代付でも腕利と名を取ったお四ッたり様が、只でこんな馬鹿騒ぎをするもんかい。それもこれもみんなこの証拠の品の伴天連像《ばてれんぞう》をつきとめて、しかとの証拠固めをしたかったからこそ、みんなしてひと幕書いた芝居なんだ。――どうどす? きょとんとしていなはりますな。へえ左様ならだ、縁があったらまたお目にかかりましょうよ」
 言いすてると、大尽の繩尻とった一行の中に交って、意気揚々と引きあげました。――意外です。まことに意表をついた椿事です。
「ウッフフ、わッははは」
 退屈男は、爆発するように大きく笑うと、ほがらかに呟きました。
「そうであろう。そうであろうよ。所司代詰の役侍と申さば、痩せても枯れても京一円の警備承わっている者共じゃ。何ぞ仔細がのうては町人風情に追従する筈はあるまいと存じておったが、わははは、わははは。みな捕り物ゆえの大芝居か、面白い。面白い! いや、面白いぞ。――のう、八ツ橋。京も存外に面白いところじゃな」
 然るに、その八ツ橋太夫が、どうしたことか浮かぬげな面持《おももち》で、明け放たれた窓べりにより添いながら、しきり
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