て、珠数屋のお大尽は、今迄の取り巻侍だった四人の者に捕って押えられて、すでに繩目の恥を受けていたのです。その目の前には、また不思議な一個の観音像がおかれてあるのです。強いて名づけたら、いばら観音とでも言うか、頭にはいばらの冠をいただき、お姿もまた異相を備えた七八寸の土像でした。勿論異国渡来の南蛮像《なんばんぞう》に相違ない。
どうしたと言うのか?――不審に打たれて呆然と佇んでいる退屈男の方を、四人の者はさげすむように見眺めていましたが、繩尻取っている中のひとりが、手柄顔に言いました。
「江戸の客仁、お騒がせ仕ったな。れッきとした二本差がいわれもなく素町人風情《すちょうにんふぜい》の下風についてなるものか。恥を忍んで機嫌気褄をとりながら取り巻いていたのも、こやつに切支丹宗徒《きりしたんしゅうと》の疑いがあったからのことじゃ。――御無礼仕ったな。千石だろうと二千石だろうと、お気のままに江戸から取りよせて、たんと遊ばっしゃい」
嘲り顔に言ったその言葉を引きついで、露払いの弥太一といったあの小者《こもの》までが、面憎く言い放ちました。
「どうでえどうでえ。ちッとばかり江戸の先生もおどろいた
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