共に、ずばりと一座の面々にあびせかけました。
「端役人共も下郎達も有難く心得ろ。隣り座敷での遊興、慈悲を以て許してつかわすぞ」
「なにッ」
「よッ」
「気味のわるい奴が、またやって来たな! 女将《おかみ》! 仲居! なぜあげたッ」
「客止めの店へなぜあげたッ」
「つまみ出せッ、つまみ出せッ。何をまごまごしておるかッ。早うつまみ出せッ」
 不意を打たれてぎょッとしながら、騒然と口々にわめき立てているのを、退屈男は心地よげに微笑しながら、悠々綽々として腰をおろすと、うろたえている仲居へ爽かに言いました。
「のう、女!」
「………」
「ほほう、血の道でもが止まったと見えて、青うなっているな。いや、大事ない大事ない。少々胸がすッと致したゆえ、今宵は身共も美人を一個|侍《はべ》らせようぞ。珠数屋の大尽とか申す町人の敵娼《あいかた》は、何と言う太夫じゃ」
「困ります。あのようにお大尽様が御立腹のようでござりますゆえ、困ります困ります。今宵はもう、あの――」
「苦しゅうない。何と申す太夫じゃ」
「八ツ橋はんと言やはりますが、それももうお大尽が山と小判を積みましての事でござりますゆえ、所詮、あの――何
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