りなりともいち人前の二本差が割って這入ったとすれば、対手にとって不足はなかったからです。わけても、取り巻四人の節操もなく気概も持たぬ、屈辱的な物ごし態度が、三河ながら江戸ながらの旗本魂にぐッとこたえたので、眉間《まゆね》のあたりをぴくぴくさせながら、静かに開き直ると、不気味に問い返しました。
「身共が因縁つけたら、おぬしこそどうしようと言うのじゃ」
「知れたこっちゃ。これが物を言うわッ」
 ぐいと胸を張って、ポンと叩いたのは柄頭《つかがしら》です。
「ほほう、これは面白い!」
 全くこれは面白くなったに違いない。刀に物を言わせようとは、元より退屈男の望むところです。悠然と片手をふところにして、おちつき払いながら促しました。
「では、因縁をつけてつかわそうぞ。なれども、尊公ひとりでは物足りぬ。ゆっくり楽しみたいゆえ、あちらのお三人衆にも手伝うて貰うたらどうじゃ」
「なにッ」
「何だと!」
「ほざいたな!」
「よしッ。それほど斬られたくば、痛い目に会わせてやろう! 出い、出い! 前へ出い!」
 風雲の急を知ったとみえて、残っていた三人の取り巻侍達も、口々に怒号しながら詰めよると、一斉に気色
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