《けしき》ばんで鯉口をくつろげました。
「せくでない!」
だが、退屈男は憎い程にも自若としたままでした。
「せくでない。せくでない。ならばあしらってつかわそうぞ。しかし、念のためじゃ。見せてつかわすものがある。とくと拝見いたせよ」
静かに制しながら、のっそりと四人の前に近づくと、おもむろに編笠をとりのけました。と同時に現れた面のすばらしさ! 今にして愈々青く凄然として冴えまさったその面には、あの月の輪型の疵痕が、無言の威嚇を示しながらくっきりと深く浮き上がって、凄艶と言うよりむしろそれは美観でした。しかも退屈男は腰のものに手をかけようともせずに、莞爾《かんじ》としながら笑っているのです。笑いつつ、そしてずいと近よると錆のある太い声で静かに言いました。
「どうじゃ、見たか」
「………?![#「?!」は横一列]」
「いずれも少しぎょッと致したな。遠慮は要らぬぞ。もそッと近よってとっくりみい」
「………」
「のう、どうじゃ。只の傷ではあるまい。江戸では少しばかり人にも知られた傷じゃ。これにても抜いて来るか!」
「………」
「参らばこちらもこの傷にて対手を致すぞ。のう、どうじゃ。来るか!」
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