たすらに探し求めました。と――その闇の奥庭の遙か向うで、ぽうと怪しく燃え上がったのは、異様な篝火《かがりび》の灯りです。同時にその灯りの中から、ありありと浮び上がって見えたのは、正しく磔柱《はりつけばしら》を背に負った珠数屋の大尽のお仕置姿でした。しかも、最期は今近づいているのです。手槍を擬した小者達両名がその左右に廻って、今し一ノ槍を突き刺そうとしているのです。否、そればかりではない! そればかりではない! 仕置人足達の采配振っているのは、あの四人のうちの片割れ二人なのだ。互に手分けして二人は必死に門を固め、残った二人は珠数屋の大尽の磔処分に当ろうとの手筈だったらしく、声高に叱咤《しった》しているおぞましい姿が、ありありと灯影の中にうごめいて見えるのです。――知るや、退屈男は一散走り! 刄襖《はぶすま》林の間をかいくぐりながら、脱兎《だっと》のごとくに走りつけると、
「天誅《てんちゅう》うけいッ」
声もろともにダッと左右へ、槍先擬していた二人の小者を揚心流息の根止めの拳当てで素早くのけぞらしておきながら、騒然と色めき立った周囲の黒い影をはったと睨《ね》めつけて、痛烈に言い叫びました。
「どこまで不埒《ふらち》働こうという所存じゃッ。無辜《むこ》の良民の命縮めて、上役人の掟が立つと思うかッ。神妙にせい! いずれも一寸たりとそこ動かば、早乙女主水之介が破邪の一刀忽ち首《こうべ》に下ろうぞッ」
叫びつつ、磔柱をうしろ背にすッくと仁王立ちに突ッ立った凄艶《せいえん》きわまりないその姿に、采配振っていた片われ二人が、ぎょッと身じろぎしながら鯉口切ったところへ、気色ばみつつ走りつけて来たのは、通行を拒《こば》んだあの二人、右と左から口を寄せて何か口早に囁いたかと見えるや、同時でした。
「そうか! 何もかも弥太一からきいてのことかッ」
「露顕したとあらばもうこれまでじゃッ。うぬがうろうろと門前を徘徊《はいかい》致しているとの注進があったゆえ、邪魔の這入らぬうちに手ッ取り早く珠数屋を片付けようと、折角これまで運んだものを、要らざる御節介する奴じゃッ。木ッ葉旗本、行くぞッ、行くぞッ」
ののしり叫びざまにギラリギラリと抜いて放って、四人もろとも、正面左右から迫って来たのを、退屈男は莞爾《かんじ》たり!
「参るか。望まぬ殺生なれど向後《こうご》の見せしめじゃ。ゆるゆるとこの向う傷
前へ
次へ
全27ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング