して、駈けよるとざっくばらんに言いました。
「殿様殿様! いいところへおいでなせえました。早く来ておくんなさいよ」
 と――、頭巾の中からいとも静かに落ちつき払った声がありました。
「うろたえて何ごとじゃ」
「だって、これをうろたえなきゃ、何をうろたえたらいいんですか! ま、あれを御覧なせえましよ」
「ほほう、あの者共も退屈とみえて、なかなか味なことをやりおるな」
「相変らず落ちついた事をおっしゃいますね。味なところなんざ通り越して、さっきからもうみんながじりじりしているんですよ。あんまりあの四人のでこぼこ共がしつこすぎますからね」
「喧嘩のもとは何じゃ」
「元も子もあるんじゃねえんですよ。あっしは初めからこの目で見てたんだから、よく知ってますがね、あの若衆の御主人様が、お微行《しのび》でどこかへお遊びに来ていらっしゃると見えましてね、そこへの御用の帰りにあそこの角迄やって来たら、あの四人連れがひょっこり面《つら》出しやがって、やにわと因縁つけやがるんですよ。それも粕《かす》みていな事を根に持ちやがってね、若衆は笑いも何もしねえのに、笑い方が気に喰わねえと、こうぬかしゃがるんですよ。お
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