かずばブッタ斬るぞッ」
 威丈高《いたけだか》にわめき立てると、執拗《しつよう》な上にも執拗に挑《いど》みかかりましたので、等しく群衆がはらはらと手に汗をにぎった途端――。
「あっ! お越しのようでござりまするぞ! お越しのようでござりまするぞ! な、ほら長割下水のお殿様のようでござりまするぞ!」
「え? ど、どう、どこに? ――なる程ね、お殿様らしゅうござんすね」
「そうですよ。そうですよ。あの歩き方がお殿様そっくりですよ」
 愁眉《しゅうび》を開いたかのごとくに群集の中から叫んだ声が挙がったかと思われるや同時に、いかさま仲之町通りを大門口の方から悠然とふところ手をやって、こちらにのっしのっしと歩いて来る一個の影がありました。それも尋常普通の人影ではない。背丈なら凡《およ》そ五尺六寸、上背のあるその長身に、蝋色《ろいろ》鞘の長い奴をずっと落して差して、身分を包むためからか、面《おもて》は宗十郎頭巾に深々とかくしながら、黒羽二重を着流しの、素足に意気な雪駄ばきというりりしい姿です。
 それと見て駈け寄ったのは、お通し物の出前持かなんかであるらしい伝法な兄哥でした。もう顔馴染ででもあるか
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