旗本退屈男 第一話
旗本退屈男
佐々木味津三
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)泰平《たいへい》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)無論|嫖客《ひょうきゃく》は
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)きっといろ[#「いろ」に傍点]に
−−
一
――時刻は宵の五ツ前。
――場所は吉原仲之町。
それも江戸の泰平《たいへい》が今絶頂という元禄《げんろく》さ中の仲之町の、ちらりほらりと花の便りが、きのう今日あたりから立ちそめかけた春の宵の五ツ前でしたから、無論|嫖客《ひょうきゃく》は出盛り時です。
だのに突如として色里に野暮な叫び声があがりました。
「待て、待て、待たぬかッ。うぬも二本差しなら、売られた喧嘩を買わずに、逃げて帰る卑怯者があるかッ。さ! 抜けッ、抜けッ。抜かぬかッ」
それもどうやら四十過ぎた分別盛りらしいのを筆頭に、何れも肩のいかつい二本差しが四人して、たったひとりを追いかけながら、無理無体に野暮な喧嘩を仕掛けているらしい様子でしたから、どう見てもあまりぞっとしない話でし
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