るのが当然中の当然なことでした。
 しかし、主水之介は退屈しているにしても、世上には一向に退屈しないのがいるから、皮肉と言えば皮肉です。
  ※[#「※」は「歌記号」、第3水準1−3−28、13−下−3]――高い山から谷底見れば
       瓜や茄子《なすび》の花ざかり
    アリャ、メデタイナ、メデタイナ
 そんな変哲もない事がなぜにまためでたいと言うのか、突如向うの二階から、ドンチャカ、ジャカジャカという鳴り物に合わして、奇声をあげながら唄い出した遊客の声がありました。
「ウフフ……。他愛のない事を申しおるな。いっそわしもあの者共位、馬鹿に生みつけて貰うと仕合せじゃったな――」
 ききつけて主水之介は悲しげに微笑をもらすと、やがてのっそりと道をかえながら、角町《すみちょう》の方に曲って行きました。
 と――、その出合がしら、待ち伏せてでもいたかのごとくにばたばたと走り出ながら、はしたなく言った女の声がありました。
「ま! さき程からもうお越しかもうお越しかとお待ちしておりいした。今日はもう、どのように言いなんしても、かえしはしませぬぞ」
 ――声の主は笑止なことに身分柄もわきま
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