がったのも、火もとはあの辺だ。ぱんぱんとひとにらみに藻屑《もくず》をあばいてお目にかけるから、ついてきな」
「ちげえねえ」
「おそいや! 感心しねえでもいいときに感心したり、しなくちゃならねえときに忘れたり、まるで歯のねえげたみてえなやつだ。そっちじゃねえ。あのかどの鈴新へ行くんだよ。とっとと歩きな」
 名人の気炎、当たるべからずです。
 表へいってみると、その鈴新が豪勢でした。みがき格子《こうし》に新《あら》のれん、小僧の数も四人あまりちらついて、年の瀬を控えた店先には客足もまた多いのです。
「根が枯れて、枝が栄えるというのはこれだよ。鈴新というからにゃ、新兵衛《しんべえ》、新九郎《しんくろう》、新左衛門《しんざえもん》、いずれは新の字のつく名まえにちげえねえ。おやじはいるか、のぞいてみな」
「待ったり、待ったり。穏やかならねえ声がするんですよ。出ちゃいけねえ、出ちゃいけねえ。ちょっとそっちへ引っこんでおいでなさいまし」
「なんだ」
「女の声がするんですよ」
「不思議はねえじゃねえか」
「いいや、若い娘らしいんだ。――ね、ほら、べっぴん声じゃござんせんか……」
 なるほど、張りのいい
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