右門捕物帖
左刺しの匕首
佐々木味津三
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)凍《し》み
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)天地|開闢《かいびゃく》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「ござりまするが」は底本では「ごさりまするが」]
−−
1
その第三十五番てがらです。
鼻が吹きちぎられるような寒さでした。
まったく、ひととおりの寒さではない。いっそ雪になったらまだましだろうと思われるのに、その雪も降るけしきがないのです。
「おお、つめてえ、ちきしょう。やけにまた寒がらしをきかしゃがらあ。だから、ものごとの正直すぎるってえのはきれえなんだ。たまには寒中にほてってみろよ。冬だからたって、なにもこう正直に凍《し》みなくたっていいじゃねえか。いるんですかい」
朝も今、夜があけたばかり、――この寒いのに、こんな早く変な声がしたからにはもちろん伝六であろうと、ひょいとみると、伝六は伝六だったが変なやつでした。しょんぼりと立って、めそめそ泣いているのです。
「なんだ」
「へ……?」
「へじゃないよ。た
次へ
全38ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング