眠りと食べ物こそは、なににもまさる極楽の囚人たちです。
「来た! 来た! おつけだぞ」
「めっぽう豪気なことになりやがったじゃねえか。湯気がたっているぜ」
「捜し出すなら捜してみねえ。下手人|詮議《せんぎ》よりも、こっちゃめしがだいじだ。おい! こっち! こっち! おれが先に手を出したじゃねえか! へへんだ。こんなぬくめしにありつけるなら、なんべんだって殺してやらあ!」
 さながらに餓鬼でした。
 目いろを変えて、十八人がずらずらと並びながら、先を争ってむしゃぶりつきました。
 しかし、名人の目がそれを遠くからながめて、じいっと光っていたのです。ひとり、ふたり、三人、四人、――右はしから拾っていったその目が、とつぜんぴたりと六人めのところで止まりました。
 人と変わった食べ方でした。
 ひどいぎっちょとみえて、左にはしを持ちながら、左でがつがつ食べているのです。
 せつな。
 つかつかと近づいたかと思うと、えり首をつまみあげた手も早かったが、啖呵《たんか》もまたみごとでした。
「たわけたちめがッ。これも名だけえむっつり流の奥の手だ。ようみろい! 餓鬼みてえなまねをするから、こういうこと
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