になるんだ。下手人はこのぎっちょと決まったよ。立てッ」
「な、な、なにをなさるんです! ぎっちょは親のせいなんだ。あっしが、あたしが下手人なんぞと、とんでもねえことですよ!」
「控えろッ。おいらをだれと思っているんだ。江戸にふたりとねえむっつり右門だよ。あの傷をよくみろい。うしろから抱きすくめて刺した傷じゃねえ。あのとおり逆刃《さかば》の跡が上にはねているからにゃ、まさしく正面から突いた傷だ。そこだよ、そこだよ。正面から刺した傷なら、ぎっちょでねえかぎり、相手の左を突くのがあたりめえじゃねえか。しかるにもかかわらず、あの傷は右をやられているんだ、右の胸をな。さては下手人左ききか、いいや、ぎっちょにちげえあるめえと、このおいらがにらんだになんの不思議があるかよ。十八人いるうちで、なにをあわてたか左でめしを食ったなおめえひとりなんだ。まぬけめがッ。むっつり右門がむだめしを食わせるけえ。そのぎっちょを見つけたくて食わしたんだ。食い意地に負けて、右手ではしを持たなかったのが運のつきさ――。下手人があがりゃ、ほかにはもう用はねえ。あにい! あにい!」
「へえ……?」
「へ、じゃないよ。なにをぱち
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