目が、ふとひざの下の重ね畳にとまりました。
不審があるのです。今まで下積みになっていたために、しけって腐ったらしいすそ切れのある一枚が上になって、しゃんとしたのが下になっているのです。あきらかに、それは畳を積み替えた証拠でした。
せつなです。ずばりとはぜたような声が、牢名主の顔へぶつかりました。
「降りろッ」
「な、な、なんですかえ。牢頭《ろうがしら》の重ね畳はお城も同然なんだ。お奉行《ぶぎょう》さまがちゃんとお許しなんですよ。降りろとは、ここを降りろとはなんでござんす!」
目をむいてさからおうとしたのを、ぞうさはない。
「もっと筋の通る理屈をいいな。おいらが降りろといったら、そのお奉行さまが降りろといったも同然なんだ。さからいだてしたところがなおさら不審だ。降りなきゃ降ろしてやるよ」
ふわりと軽く手首を取ったかとみると、草香流、秘術の妙です。
「い、い、いてえ! いてえ! いえ、降ります……降ります……おとなしく降りますよ」
ころげおちるように降りたのを待ちうけて、静かに伝六をあごでしゃくりました。
「一枚一枚、この畳をしらべてみな」
「へ……?」
「裏返しにしてみろという
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