ご親切があったら、けえりしなにえさ係りへ一本くぎをさしていっておくんなせえまし。もっとうまいしるを食わせるようにとね。浮き世の景気はどうでござんす」
などと不敵至極なことをいって、頭からのんでかかっているのです。
こんなしたたか者を相手にしては、むろん尋常一様の詮議《せんぎ》でらちのあくはずはない。おそらく、牢名主はじめ同牢の者は、だれがやったか、どうしてやったか、匕首《あいくち》の隠し場所もちゃんと知っているであろうが、告げ口、耳打ちはいうまでもないこと、世間の義理人情とはまた違った義理人情を持っているこの連中が、ひととおりやふたとおりの責め方でたやすく口を割ろうとは思いもよらないことでした。
ただ、残るものは右門流あるのみです。動かぬ証拠を右門流で見破って、ぐうの音も出ないようにする以外手段はないのです。
「さてのう、どこからおどろかしてやるか、いろいろと手はあるんだが……牢名主」
「なんでござんす」
「おまえの生国はどっちじゃ」
「おふくろの腹ん中ですよ」
「そうか。では、おまえの腹の中もひやりとひと刺し冷たくしてやるぞ」
ぶきみにいって、じろりじろりと見ながめていたその
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