。
懐中は無一物。手がかりとなるべき品も皆無。しかし、無一物皆無であったにしても、どういう素姓の者かまずそれに眼《がん》をつけるのが第一です。
しゃがんで龕燈《がんどう》をさしつけながら、しきりとあちらこちらを調べていたが、はからずもそのとき名人の目をひいたものは、死人の手のひらでした。
五人ともに人並みすぐれてがんじょうな手をしているばかりか、その両手の指の腹から手のひらにかけて、いち面に肉豆《たこ》が当たっているのです。
「船頭だな!」
「へ……? 船頭というと、船のあの船頭ですかい」
「決まってらあ。駕籠屋に船頭があるかい。いちいち口を出して、うるさいやつだ。この手を見ろい。まさしくこいつあ艫肉豆《ろだこ》だ。船頭の証拠だよ。これだけ眼《がん》がつきゃ騒ぐこたアねえ。自身番の連中、おまえらはどこだ」
「北鳥越でござります」
「四、五町あるな。遠いところをきのどくだが、見たとおり、ただの首くくりじゃねえ。今夜のうちにも騒ぎを聞いて、この者たちの身寄りが引き取りに来るかもしれねえからな。来たらよく所をきいて渡すように、小屋に死体を運んで番をせい。人手にかかったと思や、よけいふび
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