んだ。ねんごろに預かって守ってやれよ……」
言い捨てて、さっさと歩きだしたかと見る間に、たちまちその場から名人十八番の右門流が始まりました。蔵前を左へ天王町から瓦町《かわらまち》へ出て、そこの町かどのお料理仕出し魚辰《うおたつ》、とあかり看板の出ていた一軒へずかずかはいっていくと、やにわにいったものです。
「何かうまそうなもので折り詰めができるか」
「できますが、何人まえさんで?」
「五人まえじゃ」
「五人まえ……!」
不意を打たれて、伝六、ぽかんとなりました。だいいち、仕出し屋へ来て折り詰め弁当をあつらえたことからしてがふにおちないのです。そのうえ五人まえとは、だれが食べるつもりなのか考えようがない。今のさき取りかたづけさせたあの五人の亡者《もうじゃ》にでも食べさせるつもりであるなら、さかな屋で生臭入りの弁当もおかしいのです。
「冗、冗、冗談じゃねえや。あっしゃもう……あっしゃもう……」
鳴りたくも鳴れないほどどぎもをぬかれて、さすがの伝六も目を丸めたきりでした。
しかし、名人はとんちゃくがない。
「ああ、できたか。ご苦労ご苦労。ほら代をやるぞ」
小粒銀をころころと投げ出し
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