を閉じ、口も閉じて、もっと安らかな形相をしているのが普通でした。それが自殺と他殺との有力な鑑別法でした。だのに、目も歯もむいているとすると、何者かが絞め殺してからここへつるして、みずからくくったごとく見せかけたものに相違ないのです。
「ね……! こういうことになるんだから、人まねもして質屋へも行くもんですよ。あっしが一張羅を殺して道を迷ったからこそ、こういう大あなにもぶつかったんだ。三両じゃ安いですぜ」
「なにをつまらねえ自慢しているんだ。早く取り降ろすくふうしろ」
「だって、このとおり上っちゃいけねえし、手は届かねえんだからね。くふうのしようがねえんですよ」
「舟から枝へはしごでも掛けりゃ降ろせるじゃねえか。倉の荷揚げ場へ行きゃ、舟もはしごも掃くほどあるはずだ。とっととしろい」
 自身番の小者たちもてつだって、たちまち取り降ろしの用意がととのいました。

     2

 松の根もとに並べたのを見しらべると、五人ともに死人はたくましい男ばかりです。
 不思議なことには、その五人が申し合わせたように、三十まえの若者ばかりでした。こざっぱりとした身なりはしているが、裕福なものたちではない
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