おきれいでいらっしゃる。だが、少うしお年を召していらっしゃる。でき心の種は、そのお年までおひとり身でいらっしゃったことに根を張っていそうでござんすが、違いますかい」
「なにをおっしゃいます! わたしは何も! わたくしはいっこうに何も……」
「知らん存ぜぬというんですかい。おきのどくだが、灸のにおいがね、にんにく灸のにおいが、栄五郎にやった五十両の小判にはっきりしみついていましたよ」
「ま、にんにく灸のことを!――そうでござんしたか! あれをかぎつけなすったんでございますか……! それではもう、それではもう……」
 じり、じり、と、なにものかに押しつけられでもしたかのようにうなだれると、お秋ははらはらと、そのひざへしずくをはうりおとしました。
 と同時に、たえられなくなったと見えるのです。がばと泣きくずれると、すすりあげ、すすりあげいうのでした。
「取り返しのつかぬことをいたしました。かわいい妹の膚を傷物にして、恐ろしゅうござります……! そら恐ろしゅうござります」
「やっぱり、あんたでござんしたな。なんだとて、またあんないれずみをしたんです」
「かわいかったから、ただもうかわいかったか
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