しれねえ。何々にききめがあるか、よく聞いてきな」
「がってんのすけだ」
 飛んでいった姿がくるくると舞いながら帰ってくると、意外なことをいったのです。
「ふざけていやがらあ、気欝封じなんてまっかなうそですよ。ありゃ胃にきく灸だというんだ。おまけに、あいつをすえたら急に眠くなって、死んだように寝込むというんですよ」
「なにッ、眠り灸! 眠くなる灸だってな。ふふん、そうか! さては、お秋め、ひと狂言書いたな――来い! 逆もどりだ。啖呵《たんか》を聞かしてやるよ」
 乗りこんでいったところは、今のさき風に吹き流されている人のようにふらふらと出てきたばかりの、あの大西屋でした。しかし、今はもう颯爽《さっそう》明快、莞爾《かんじ》と笑ってお秋を前にすると、やにわにおどろかして、ずばりといったものです。
「栄五郎の目隠しに穴があったっていいましたぜ」
「えッ!」
 二度訪れたおどろきに、さらにおどろきを重ねて、さっと青ざめた顔の上へ、静かな声がふりかかりました。
「たたみ文句はいくらでもござんす。しかし、夏場はあっさりと行くにかぎりますからね。むだな啖呵は控えましょう。あなたもお妹御に負けず劣らず
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