らね。おのずとこっちも力がはいるというもんですよ。え、ちょっと。はええがいいんだ。早いところ眼《がん》をつけねえことには、恥ずかしい、申しわけがないと、ざんぶりやらねえともかぎらねえからね。ひとにらみにホシを見つけ出して、功徳を施してやるといいんですよ」
 むろん、それができたら文句はない。しかし、事は伝六が意のごとく、さようにあっさりとかんたんにひとにらみというわけにはいかないのです。だいいち、お冬の陳述からしてが、はたして真実であるかどうか、はなはだしく疑問でした。知らぬ、覚えはない、喜七なぞという男は耳にしたこともないと言い張ってはいたが、ないものの腕に喜七いのちと彫りつけられてあるのが疑わしいのです。詮議の道はそれを確かめることがまず第一でした。
 つづいてはお冬の素姓の詮索《せんさく》。第三には喜七なるものがどこのだれであるかその詮議、第四にはあのすばらしく江戸まえな朱彫りの彫り手はいったい何者であるかその詮議。第五にはお湯からお湯までの間の行動。すなわち、お冬があの彫りものを見つけるまでの、ゆうべから今のさきまでに、何を、どうして、どうやっていたか、その穿鑿《せんさく》。な
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