当たったのです。
声とともに、たびはだしのままで、しわのきざんだ顔に怒りとろうばいの色を散らしながら、あと追いかけて飛び出してきたのは、だれでもない宗左衛門でした。つづいて母親、同様にろうばいしているとみえて、たびはだしのままお長屋門の外へ追いかけてきたその目の前へ、莞爾《かんじ》と笑《え》みながら名人が現われると、声もかけずに立ちふさがりました。
「うぬは!」
「右門でござる」
「計ったか! 老いても市崎宗左衛門じゃ。手出しができるなら出してみろッ」
老骨、必死となって抜きかかろうとしたのを、草香流があるのです。手間のかかるはずがない。
「お相手が違いましょう。あばれると痛うござりまするよ。おとなしく! おとなしく!」
あっさりねじあげて伝六に渡しておくと、懐剣ぬいて、横からおそいかかろうとした老女の小手へぴしり――。
「友次郎どのの魂魄《こんぱく》が迷いますわ。しろうとが刃物いじりなぞするものではありませぬ。あなたもおとなしく! おとなしく!」
軽くねじあげてふたりをなわにしたところへ、歯ぎしりかみながら悄然《しょうぜん》と現われた顔がうしろに見えました。あば敬とその一党で
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