右門捕物帖
闇男
佐々木味津三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)四谷《よつや》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)比丘尼店家主|弥五六《やごろく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「くしへ」は底本では「ぐしへ」]
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     1

 ――その第三十番てがらです。
 事の起きたのは新緑半ばの五月初め。
 さみだれにかわずのおよぐ戸口かな、という句があるが、これがさみだれを通り越してつゆになったとなると、かわずが戸口に泳ぐどころのなまやさしいものではない。へそまでもかびのただようつゆの入り、というのもまんざらうそではないくらい、寝ても起きても、明けても暮れても、雨、雨、雨、雨……女房と畳を新しく替えたくなるというのもまた、このつゆのころです。
 しかし、取り替えようにもあいにくと妻はないし、伝六はあいかわらずうるさいし、したがってむっつり名人のきげんのいいはずはない。
「四谷《よつや》お駕籠町《かごまち》比丘尼店《びくにだな》平助ッ」
「…………」
「平助と申すに、なぜ返事をいたさぬか!」
「へえへえ
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