。鳥目でござえますから、どうかもっと大きな声をしておくんなせえまし……」
お番所同心控え席の三番、それが名人右門の吟味席です。その控え席でそこはかとなくほおづえつきながら、わびしく降りつづけている表の雨を見ながめていると、隣二番のお白州、これが右門とは切っても切れぬ縁の深いあばたの敬四郎の吟味席でした。その二番の席で、敬四郎が何を吟味しているのか、しきりといたけだかになってどなりつけているのが聞こえました。
「人を食ったやつじゃ。鳥目ゆえ耳がきこえぬとは何を申すかッ。上役人を茶にいたすと、その分ではさしおかんぞ」
「でも、当節は耳のきこえぬ鳥目がはやりますんで……」
「控えろッ。いちいちと嘲弄《ちょうろう》がましいこと申して、なんのことかッ。通り名は平助、あだ名は下駄平《げたへい》、歯入れ、鼻緒のすげ替えを稼業《かぎょう》にいたしおるとこの調べ書にあるが、ほんとうか」
「へえ、さようで。稼業のほうはたしかにげたの歯入れ屋でごぜえますが、あだ名のほうはあっしがつけたんじゃねえ、世間がかってにつけたんでごぜえますから、しかとのことは存じませぬ」
「控えろッ。ことごとに人を食ったことを申し
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