て、許しがたきやつじゃ。比丘尼店家主|弥五六《やごろく》の訴えたところによると、そのほう当年八歳になるせがれ仁吉《にきち》と相はかり、仁吉めが先回りいたしては人目をかすめて玄関先へ忍び入り、はさみをもって鼻緒を切り断ちたるあとよりそのほうが参って、巧みに鼻緒を売りつけ、よからぬかせぎいたしおる由なるが、しかとそれに相違ないか」
「へえ、そのとおりでごぜえます。なんしろ、この長雨じゃ、いくら雨に縁のある歯入れ屋でも上がったりで、お客さまもまた気を腐らしてしみったれになったか、いっこうご用がねえもんだから、親子三人干ぼしになって死ぬよりゃ牢《ろう》へはいったほうがましと、せがれに緒を切らして回らしたんでござんす」
「なんだと! 雨が降ってお客がしみったれになるが聞いてあきれらあ。雨は雨、お客はお客。槍《やり》が降ろうと、小判が降ろうと、人殺しのあるときゃあるんだ。だんな! だんな! ご出馬だッ。穏やかじゃねえことになりやがったんですぜ」
 他人のこともいっしょにして口やかましくわめきながら、声から先に飛び込んできたのは、断わるまでもないおしゃべり屋のあの伝六です。
「おつに気どって雨なんぞ
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