す。
「おう。おいででござりまするな」
見ながめると、ほろりとさせるように心よい右門流でした。
「あとをつけてお越しのようだが、ちっとそれが気には入りませぬが、相見互い見、てがらを争おうといっしょに出かけたあんたが、手ぶらでも帰られますまい。お分かちいたしましょう。宗左どのたちふたりをなわつきのままさしあげます。身分のある者たちでござりますゆえ、これを引いていったら一段とまたおてがらにもなりましょうからな。てまえはこっちでたくさん――」
その手になわじりを渡しておくと、静かにふりかえりながら、やさしくいった。
「七造、おとなしゅう行けよ。ふびんとは思うが、小娘ひとりあやめたとあっては、おさばきを待たねばならぬ。右門には目がある。お慈悲のありますよう、取り計らってやるぞ。わかったら行け」
「行きますとも! だんなさまになわじり取っていただけますなら、どこへでも参ります……」
絹のような雨の中を、うちそろって引っ立てていったあとから、伝六が口ごもっていいました。
「だんなへ……」
「なんだよ」
「いい気性だな。あっしゃ、あっしゃ……泣けてならねえ、泣けてならねえ……」
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