るだくらみをしているに相違ねえですよ」
「よしッ。来い! ひと狂言、あざやかなところを書いてやらあ。伝六、小梅まで早舟の用意だッ。早く仕立てろッ」
「ちくしょうめ。さあおいでだぞ。金に糸目はつけねえんだ。船頭、急げ、急げ」
 水かさを増した大川をひと下り。舟は名人、伝六、七造の三人を乗せて矢のような早さです。
 水戸家のお下屋敷かどから堀川を左に曲がって、瓦町《かわらまち》から陸《おか》へ上がると小梅横町、お賄い方組屋敷までへは二町足らずの近さでした。
「あの二つめのお長屋がそうですよ」
「よしッ。では、七造、玄関先へいって呼びたてろ。口止め金を百両くださらば一生口をつぐみます。くださらなければ、今すぐお番所へ駆け込み訴訟をいたしますぞと、大声で呼んで逃げ帰ってこい! 追っかけてこの屋敷をひと足外へ出りゃ草香流だ」
「心得ました」
 飛び込んでいくと、あたりはばからず七造がわめきたてました。
「魚心がありゃ水心だ。百両出すか、出さねえか。出さなきゃ三尺たけえ木の空へ、うぬらの首もいっしょに抱きあげてやるぞッ」
「なにッ。バカな! 七か! 何をたわごと申すんじゃ。まてッ、まてッ」
 策は
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