し、なにをいうにも、稼業《かぎょう》が世間の広い孫太郎虫売りだ。あっちこっちと江戸のうちを売り売り捜しているうちには、ひとりくらいうり二つという町人衆が見つかるだろう。町人衆ならばわけを話して身代わりに抱き込んだら、一生旗本暮らしに出世のできることなんだから、二つ返事で承知するだろうとね、毎日毎日、妹が捜し歩いているうちに――」
「よし、もうわかった。その秘密をいっしょに売り歩いていたおなつがかぎつけたんで、むごいめに会わしたというのか!」
「そうなんでござんす。子どもだ、だいじょうぶでござんしょうといったが、宗左とおふくろがどうしてもきかねえんで、きのう夕がた、麻布へおびき出し、この手で絞めたのが天罰てきめん、おくにといっしょにお屋敷へ帰って、せめても景気をつけようと酒をあふっていたら、事のついでだ、影武者捜しはほかの者を使って捜してもおそくはない、小娘を殺さしてはみたが、人ひとりやってみれば世間が騒ぐだろうし、下郎の口がいつ割れるともかぎるまいから、ふたりもかたづけようとね、宗左たちめが相談しているところをちらりと聞いたんで、判じ文を妹にこっそり渡しておいて、ここから巡礼落ちをしよ
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