んですよ。ところが、その晩、忘れもしねえがひと月まえの夜ふけでござんす。友次郎さまが先ほどもいったように、ぶらりと首をつっておしまいなすったんでね。おどろいたのはおふくろと宗左衛門のふたり。たったひとりのご子息に死なれちゃ、お家は断絶、跡目がたたねえからね。わるい知恵の働く兄妹《きょうだい》とみえて、さっそくくふうしたのが――」
「闇男の細工か!」
「そうなんでござんす。せっかくできかかった金のつるを飛ばしたんでは、いかにも残念。七造、おまえも出世のできることだ、力を貸せといってね、それにはまず第一、友だんなさまの死んだことを世間に隠さなくちゃならねえからと、からくり細工の闇男をでっちあげて、いもしねえおかたがありもしねえ病気にかかったように触れ歩きながら、姿は見せぬがさもさもまだこの世にいるように見せかけておいて、いっしょうけんめいに替え玉になるような顔だちの似た男を捜し歩いたんですよ。その捜し手に頼まれたのが、殺された妹のおくになんでござんす。国は越後《えちご》だが、江戸へ来るたんびにちょくちょくあっしをたずねてお屋敷へも来たことがあるんでね、友だんなさまの顔だちはよく見知っておる
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