てん》走り。見ながめるや、名人がまたさらに早かった。
「手数をかけやがる野郎だなッ! ほら、行くぞッ」
 十手取る手も早く窓から半身を泳がせて、とっさに投げた手裏剣代わりの銀棒が、ひらひらと舞いながら飛んでいったかと見るまに、がらりと足を取られて七造がのめりました。
「笑わしゃがらあ。神妙にしろい!」
 押えつけて伝六が得々と引っ立ててきたのを、庭に降りて待ちうけていた名人が、やにわにずばりと浴びせかけました。
「七造、おくには浅草で殺《や》られたぞッ」
「えッ。――そ、そ、そりゃほんとうですかい!」
「一刀に袈裟《けさ》切りだ。切り手は、おまえの判じ文にこっちがあぶなくなったとあったその相手に相違ねえが、そいつはだれだ。おまえたちがこわがったその相手は、どこのだれだ」
「ちくしょうめ、とうとうばっさりやりやがったんですかい。おくにはあっしのだいじな妹でござんす。無慈悲なまねしやがったとありゃ、こっちもしゃくだ。一つ獄門に首をさらすように、何もかもしゃべっちまいましょうよ。孫太郎虫の小娘おなつを絞め殺したのはこのあっし、てつだわせたのは妹おくに、殺せと頼んだのは、だれでもねえ闇男屋敷の
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